目の前のもうけ話よりも義理や人情、信頼関係を大切にするお話。

むかしむかし、堂本食品に木樵(きこり)という男がいた。

木樵の仕事は、佃煮の原材料となる海苔を調達することだった。

ある年、異常気象が発生し、海苔は大不作。

仕入れ価格は急騰し、木樵は「はて、どうしようか…」と困った。

すると、木樵のもとに、金太郎、銀次郎、鉄五郎という三人の海苔の生産者がおとずれた。

金太郎は「はじめまして。ウチなら破格の百円で海苔を提供しますよ」

銀次郎は「今ならタイムサービス。千円で提供しますよ」

長年の義理がある鉄五郎は「ごめんなさい。この不作だとウチは相場の五千円でしか売れません。」

海苔の仕入れのイラスト

木樵は悩みました。

この不作の中、百円や千円で海苔を買えるなんてそんなウマい話があるのだろうか。

目の前の儲けを取るか、長年の義理を取るか。

木樵は、悩みに悩んだ末、長年の義理がある鉄五郎から海苔を買うことにした。

数年後、さらにすさまじい異常気象が発生した。

すると、金太郎から海苔を買っていた人は、「急に連絡がとれなくなった」となげき、銀次郎から海苔を買っていた人は、「売り切れだ。帰ってくれ」と断られた。

木樵は、鉄五郎に「海苔を買いたいのだが」と尋ねると、鉄五郎は「あのとき、適正な価格で海苔を買ってくれたのは、木樵さんだけだ」と特別に海苔をとっておいてくれた。

その一部始終を見ていた上司は、こう言った。

「お金でつながる縁はすぐに切れる。信頼という強固な絆こそが大切なんだ」

おかげで、堂本食品はその年も無事に佃煮をつくることができましたとさ。

めでたし、めでたし。